汽笛が盛大に鳴って、線路を走る。





汽車の中から窓の外の風景を見ていると、田畑や家畜が見えてきた。










「わぁー、自然がいっぱいで綺麗ー」








思わず声を上げる。









「お、着いたのか」









エドが言うと、しばらくして汽車が停止する。













≪リゼンブール〜〜リゼンブールだぁよっと≫








駅長の脱力を誘う声が駅に響いた。






























Act.15 故郷ふるさとの村






























汽車から降りて、家畜車両からアルを降ろし、駅から出る。









しばらく歩くと家が見えて、そこの庭から左前足に機械鎧をつけた黒い犬が駆け寄ってきた。








わー、ロックベル家の飼い犬のデンだー。













「よう、ピナコばっちゃん。また頼むよ」











家に着くと、ものすごく背の低い、キセルを持ったおばあちゃんにエドが言う。





「こっち、アームストロング少佐」





と、エドが少佐を指差す。







「ピナコ・ロックベルだよ」





ピナコばっちゃんと、少佐が握手を交わす。






「そんで、こっちが







です。よろしくー」









「よろしくね」






ニカッと笑うばっちゃん。









隣ではアルが「デン、ひさしぶりー」と箱の中に納まったまま言っている。










「しかし、しばらく見ないうちに・・・エドはちっさくなったねぇ」









少佐とエドを見て言う。







その二人じゃ対比が・・・・・・!!











「だれがちっさいって!?このミニマムばば!!」




「言ったねドちび!!」




「豆つぶばば!!」




「マイクロちび!!」




「ミジンコばば!!」











先程のばっちゃんの言葉に怒り、エドはばっちゃんと言い争いをはじめた。









・・・・・・かわいそうにエド・・・ピナコばっちゃんしか、チビと罵れる人がいないのね・・・・・・。(涙)










まだまだ続く、言い争い。




もう出される言葉は小さいものばかり。




よくそんなにネタが浮かぶねー、二人とも。



















「こらー!!エド!!」









突如響いた大きな声。







その声にエドがはっとする。












ぴゅー      がいん





「ごふ!!!」












硬直していたエドの頭にスパナがヒット。






そのまま地面に倒れこんだ。














「メンテナンスに来る時は、先に電話の一本でも入れるように言ってあるでしょ―――――!!」







二階のベランダから、バンダナを着けた女の子が叫ぶ。








「てめーウィンリィ!!殺す気か!!」






エドはスパナが当たったであろう後頭部を押さえ、ウィンリィに向かって怒鳴った。












「あはは!おかえり!」








「おう!」



「ただいまー」



















































「んな―――――――――――――っ!!」







ウィンリィがエドの右腕を見て大声を上げる。








「おお悪ィ、ぶっ壊れた」





微塵も反省していないような表情で飲み物をすすり、謝罪するエド。









「ぶっ壊れたって、あんたちょっと!!あたしが丹精こめて作った最高級機械鎧を、どんな使い方したら壊れるって言うのよ!!」






「いや、それがもう粉々のバラバラに」はっはっはっ







「バ・・・」



よろれりと頭を抱えるウィンリィ。



無理も無い。









ゴッ








しかし次の瞬間には、ウィンリィがエドの頭をスパナで殴っていた。








あぁ・・・あぁ・・・血が・・・・・・血が出てます、お姉さん・・・。









「で、なに?アルも壊れちゃってるわけ?あんたらいったいどんな生活してんのよ」
















それがもう色々とすんごい生活を。








合成獣に襲われるわ、ハゲ頭の光で目がくらむわ、バッテンに殺されそうになるわでもう大変でした・・・・・・。






てへっ、なんて照れてる場合じゃないぞアル。




















































「兄さんの腕、どのくらいで直るかな・・・・・・」








私達はエドたちの邪魔にならないように庭へと出た。





その中、アルが呟く。







「うーんと・・・・・・一週間・・・いや、三日・・・・・・だったかなー?」








私は記憶を手繰り寄せ、答える。







「えっ、三日!?そんなに早く直るの・・・?」




「あー、だよねぇ・・・粉々のバラバラだもんねー・・・」








スカーにボコンと壊された機械鎧を思い出し、微笑する。









「・・・・・・ねぇ、




「んー?」





「イーストシティで、あの時来てくれてありがとう」








そう言われて、アルの方を向く。







「・・・・・・なーに妙に改まってんのアル。お礼ならもうイーストシティで聞いたしさ」










「・・・でもあの時、が止めてくれなかったら兄さんは死んでたかもしれない。だから・・・」







「助けるのは当たり前だよ。・・・もう、私にとっちゃ、エドとアルは大切な仲間だもん」






にっと笑って答えた。






「・・・・・・・・・」

















「おーい、アル、、聞いてくれよ!まったく!」









頭にタンコブを作って、エドが怒りながら歩いてきた。
















































「・・・・・・ったく、なんなんだあの凶暴女は!!」












「何を今さら」






ははは、とアルが笑う。









エドが言うには、慣れない足だというのに、ウィンリィに突き飛ばされたとか。







そして、機械鎧は三日でできるらしい。











「は―――三日か・・・」









ごろんと横になるエド。








さわさわと風が流れ、鳥が鳴く。











「・・・・・・・・・・・・とりあえず、やる事が無いとなると、本当にヒマだな」





「図書館とかも無いらしいしねー」





「ここしばらくハードだったから、たまにはヒマもいいんじゃない?」









「〜〜〜〜〜ヒマなのは性に合わねぇ!!」






「「(だろうね・・・)」」






じたじたと地面で手と足を振る。



その隣ではデンがエドの真似を・・・・・・。







「そうだ、そんなにヒマなら母さんの墓参りに行っといでよ」





「あ、それとエド。リゼンブールに着いたら案内してくれるって行ってたよね。墓参りのついででいいからさー」






「墓参りか・・・でもアル、おまえそんなナリじゃ行けないじゃん」






「少佐にかついで行ってもらうのも悪いから、ボクは留守番してるよ。機械鎧が直ったら、すぐ中央に行くんだろ?だったらヒマなうちにさ」





「そーだな・・・ちょこっと行って来るか・・・」












































「うっわぁ〜・・・汽車から見たけど、やっぱり近くで見ると自然がいっぱいで綺麗だねー」




「そうか、気に入ってくれてよかった。こんな田舎、自然しかないしな」






はは、っと笑うエド。


その横には小さな花束をくわえたデンがいる。












「あれ、エドワード。帰って来てたのか」




「久しぶり!」







羊に囲まれたおじさんと男の子が声をかけてきた。






「相変わらずちっさいのー」



「ちっさい言うな!!」



「まだ国家なんとかってやつやってんの?」


























「それと・・・・・・」









二人の視線は私に。






そして、おじさんの方がエドの耳元で何事か囁いた。





「・・・・・・エドワード、おまえも隅に置けないねぇ・・・」



「は?」






「だから、コ・レ」











話は聞こえないが、何故だかおじさんが小指を立てている。






ゆびきりげんまん?







「・・・・・・・・・はぁ!?そんなんじゃねぇよ!!ただの旅の仲間だ、仲間!!」







しかも今度はエドの方が叫んだ。





仲間って私の事か?あんたら私の話してたのか?







「まったく、人をからかうのもいい加減にしろよ!」






「あはは、悪い悪い」




「じゃあな、嬢ちゃん」





「え、うん」








ひらひらと手を振って、父子と別れた。





その時の手を振る二人がやけに笑顔なのが気になった。
















「・・・・・・ねぇ、エド。さっき何話してたの?」




「・・・・・・・・・大した事じゃねえよ・・・」








ゆっくりと視線を逸らすエド。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・はて?

































その後も景色を見、町の人と話したりして、ようやく墓地に着いた。









「・・・トリシャ・エルリック。オレとアルの母さんだ」







一つの墓の前に行き、エドは私に説明してくれた。







ふと、エドがある方向を見た。





その先には、焼けた木と少しの瓦礫が見える。





「・・・・・・あっちも行くか・・・」





「え・・・あ、もしかしてあれってエドとアルの家・・・・・・?」






「家があった場所、ってのが正しいかな・・・」


























少し歩くと、エドとアルの家(があった場所)に着いた。







「・・・焼けてる」





「・・・オレが国家資格を取って旅立つ日に焼いたんだ・・・もう後戻りできないようにな」






「・・・・・・そっか」












この場所を見るエドの目が、どことなく切なげな感じがするのは気のせいだろうか・・・?








しばらく、私も焼け跡を見ていると、デンが寄ってきた。








「・・・・・・帰るか。みんなが待ってる」





「うん」












































三日後・・・
























「アル、大丈夫?それ」




「うん、兄さんの腕が直ったら、すぐこの鎧も直せるよ」





「アル、おまたせー」





だだーとエドが走ってきた。







「あ、兄さん」




「んな急いで来んでも」








私がそう言うと、「早く直してやりたいんだよ」って言われた。







「鎧の破片、これで全部か?」






「うん、イーストシティの憲兵さん達が丁寧に拾ってくれた」




「すぐ直るのか?」






「うん、ちょっとコツがいるけどね」







・・・・・・ってうわ!?15文字、いつの間に!?さっきはいなかったのに!








「背中の内側に印があるだろ」




「うむ」





「あるねぇ」






「これがアルの魂と鎧との仲立ちになってるんだ。この印を崩さないように手足を直さなきゃならない」







「血文字のようだな」




「血文字だよ。オレの血」







そう聞いた途端、なんだか青い顔して「血・・・」と少佐が呟いてる。






「それにしても危なかったな――――」



「もう少し深くえぐられてたら終わってたねー」





あははははは、って・・・笑い事じゃないだろう。














パン!








エドが錬成を始めると、みるみるうちにアルの鎧が直っていった。






「よーし、んじゃ早速・・・」











と、組み手を始めた二人。




エドがアルに勢いよく投げられた。









「む?なんだ?兄弟喧嘩か?」







「ちがうちがう。手足の作動確認も兼ねて、組み手をやってるんだよ」




「それにここしばらく身体を動かしてなかったから、カンを取り戻さないとね」






「ほほう・・・・・・ならば我輩も協力しよう!!






どば






いきなり脱ぐ。








「遠慮無用ッ!!」




「「 ギャー!!来るなー!!」」











追いかける15文字、逃げ惑うエルリック兄弟。




何の絵にもなりゃしない・・・。










とりあえず巻き込まれるのは御免なので、私は家の中に入った。



























数時間後・・・






















「ばっちゃん、ハラ減った!!」








エド達がボロボロになって戻ってきた。
















そして夕食。













「オレ達の師匠が、「精神を鍛えるにはまず肉体を鍛えよ」ってんでさ。こうやって日頃から鍛えておかないとならない訳よ」






「それでヒマさえあれば組み手やってんの?そりゃ機械鎧もすぐ壊れるわよ」




「まぁ、こっちはもうかっていいけどねぇ」 かっかっかっ




「ふむ、しかし正論であるな。健全な精神は鍛えぬかれた美しき肉体に宿るというもの。見よ我輩の




「アル、そこのソース取って」



「はーい」








またもや脱ぐ。今は食事中だぞ。








ウィンリィは「わー」って嫌な顔をしているのに対し、ばっちゃんは・・・なぜか赤くなってる!?









「明日、朝イチの汽車で中央に行くよ」




「そうかい。またここも静かになるねぇ」




「へへっ。元の身体に戻ったら、ばっちゃんもウィンリィも用無しだな!」




「言ったね小僧!だいたいあたし達整備師がいないと何もできないくせに、このちんくしゃは」





「ちんくしゃってなんだよ!!」




「うむ、言いえて妙なり!」

























夕食後。


































「ふあ―――っ・・・眠い・・・ってあれ、エド・・・」









作業場の長椅子の上でエドが寝ていた。






「あーあ、またおなか出して寝てるよ、しょうがないな」





「まるっきりの保護者だね、アルは」




かっかっかっと笑うばっちゃん。




「ほんとにもー手間のかかる兄を持つと苦労するよ」




「これじゃあどっちが兄貴だかわかんないね」




ウィンリィは苦笑しながら、エドの上にシーツをかける。






「おまえ達、いくつになった?」




「ボクが14で兄さんが15」





「あはは。あたしと同い年でこんなちっこいくせに、“人間兵器”だなんて笑っちゃうよね。無防備に寝ちゃってさ」






「―――あ、はは!」




「?」




何か思い出したように顔を上げ、アルが笑う。





「いやぁ、「おなか出して寝て」って言えば、ユースウェル炭鉱に行った時の事思い出しちゃって」





「あー、あそこは大変だったよねー」






「それで、そこの炭鉱の人達が、上からの締めつけで困ってて助けてくれって言われたんだけど、兄さん最初は助ける気はさらさら無かったんだ。だけど、そこの親方の「炭鉱が俺達の家でカンオケなんだ」って言葉を聞いて、結局助けちゃったんだよね」




「かなーり無茶してたけどね」





「うん」








「かっかっか!そうかい、“俺達の家”かい!そうだね・・・帰る家の大切さや無くなるつらさは、おまえ達は身に染みてるもんねぇ」





「うん。だからいつも本当の家族みたいに迎えてくれるばっちゃんとウィンリィには感謝してる。口に出さないけど兄さんもね」





私はエドをチラリと見た。




ぐっすりと眠っている。





「それでもやっぱり、生まれ育った家が無いっていうのが現実なんだ。ボク達、家を焼いた事は後悔してないけど、時々無性にん泣きたくなる事があるよ。いっそ一度思いきって泣いちゃえばふっきれるかもしれないけど。はは・・・この身体じゃ泣くに泣けない」






「泣ける身体があるのに、泣かないバカもいるしね。ほんと、強がっちゃってさこのバカは・・・」
















・・・・・・帰る家、か。





私は元の世界に帰れるんだろうか。



自分が生まれ育った家に帰れるんだろうか・・・・・・。
















































朝。







鶏がコケーと鳴いた。










「世話になったな、ばっちゃん」



「ああ」



「あれ、ウィンリィは?」



「徹夜続きだったから、まだぐっすり寝てるよ。起こしてくるかい?」




「あーいいよいいよ。起きて来たら、機械鎧の手入れはちゃんとしろだのあーだこーだうるさいから」















手を振って断るエド。















「じゃあな」




「ああ、気をつけて行っといで。たまにはご飯食べに帰っておいでよ」





「うん、そのうちまた」





「こんな山奥に、メシ食うだけに来いってか」



















「ふっふ・・・」



「?なんだよ」





「迎えてくれる家族・・・帰るべき場所があるというのは、幸せな事だな」





「へっ、オレたちゃ旅から旅への根無し草だよ」






エドの言葉に、少佐は苦笑した。



















「エド!アル!!」










呼ばれて振り返ってみると、二階のベランダにウィンリィが立っていた。




















「いってらっさい」




まだ眠そうに、ひらひらと手を振った。














「おう!」



























その後何事もなく汽車に乗ることができた。



当然、目指すは中央セントラル















----あとがき-----

管理人 「やっと来ましたリゼンブール!」
エド 「・・・ま、里帰りして、墓参り行って、久しぶりの休暇って感じだったな」
管理人 「あーそうだね。とりあえず、腕直ってよかったね」
エド 「ああ、アルも直せたし、次は中央でマルコーさんの資料を探して・・・」
管理人 「・・・・・・そう簡単に行くとでも思っているのかい?」
エド 「お、おお?なんか急に管理人がデカくなった・・・。何、何かあるのか?」
管理人 「イエナニモ」
エド 「なんか怪しい・・・」
管理人 「アヤシクナンカナイデオジャル」
エド 「お、おじゃる?」
管理人 「マロハナニモシラナイデオジャルヨ」
エド 「また管理人のカタコト語が再発した・・・・・・!?」

                      終了





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2006.01.22.Sun