ボッ










とある町の駅に着いた。








目の前に座っているエドは、かわいらしい欠伸をしている。









ふと、窓の前を一人の老人が通った。







・・・・・・あ・・・あの人って確か・・・。









がばっ







「うわ!?」




「ひっ!?」







すると、アームストロング少佐がいきなり立ち上がる。










・・・・・・つーかすごくびびったんですけど・・・。










「ドクター・マルコー!!」







しかも、さっきの老人に声をかけた。








「ドクター・マルコーではありませんか!?中央のアレックス・ルイ・アームストロングであります!」






そこまで少佐が言うと、老人が形相を変えて逃げるように走り去っていった。











「あ・・・」





「知り合いかよ」





「うむ・・・」








エドが聞くと、少佐は言いにくそうに口を開く。








「中央の錬金術研究機関にいたかなりやり手の錬金術師だ。錬金術を医療に応用する研究に携わっていたが、あの内乱の後行方不明になっていた」









「降りよう!」





「え・・・ちょっとエド!」






少佐の話を聞いた途端に、エドが列車の入り口まで走り出す。








「む?降りるのはリゼンブールという町ではなかったのか?」




「そういう研究をしてた人なら、生体錬成について知ってるかもしれない!」





「じゃあアルと荷物降ろして・・・」





「ああ、すみませーん、降ります!」










近くの駅員に声をかける。






しばらくして、少佐が家畜車両からアルを降ろす。













「うわ!アル羊くさっ!!」




ガ――ン




「好きで臭くなったんじゃないやい!!」










そんな会話を兄弟は交わしていた。






























Act.14 賢者の石の研究者






























駅から出て、エドが近くにいる町の人に声をかける。







「あの、さっきここを通った・・・・・・え―――と・・・・・・」





「こういう老人が通りませんでしたかな?」






ぬっとエドと町の人の間に入り、ティム・マルコーの絵を描いた手帳を見せる少佐。







「・・・少佐、絵上手いね・・・」






「わがアームストロング家に代々伝わる似顔絵術である!」





「・・・・・ほう」









「ああ、マウロ先生!」




「知ってる知ってる!」





「マウロ?」






その後、町の人たちに聞きに町を回る。






「この町は見ての通りみんなビンボーでさ。医者にかかる金も無いけど、先生はそれでもいいって言ってくれるんだ」





「いい人だよ!」




「ああ、絶対助からないと思った患者も見捨てないで見てくれるよな」







「おお、オレが耕運機に足を巻き込まれて死にそうになった時もきれいに治してくれたさぁ!!」





「治療中にこう・・・ぱっと光ったかと思うと、もう治っちゃうのよ」










みんな『マウロ』という人物に感謝の意を示していた。








「光・・・・・・」




「うむ、おそらく錬金術だ」






「偽名使ってんだね、マルコーさん」





「みたいだな。そんで田舎に隠れ住んでいたのか・・・。でもなんで逃げたんだ?」







「ドクターが行方不明になった時に、極秘重要資料も消えたそうだ。ドクターが持ち逃げしたともっぱらのうわさだった・・・。我々を機関の回し者と思ったのかもしれん」







町の人たちに聞いたマルコーさんの家に着くと、エドがドアを開ける。










「こんにち・・・








ドン



「うお!!」










ドアを開けた瞬間にエドの目の前に銃口があって、しかも迷わず撃ってきたらしい。










「・・・・・・ひゃー、間一髪だねエド。ていうか、ドア開けたのが町の人だったらどうすんだよ・・・・・・」









エドが胸を押さえてびくびくしてる。





よほど心臓に負担がかかったようだ。








「何しに来た!!」






「落ち着いてくださいドクター」





少佐が手を上げて、マルコーさんの興奮を抑えようとしている。






「私を連れ戻しに来たのか!?もうあそこには戻りたくない!おねがいだ!かんべんしてくれ・・・・・・!」





「違います、話を聞いてください」




「じゃあ、口封じに殺しに来たか!?」







エドが少佐を見、マルコーさんを見、でキョロキョロしている。








「まずはその銃をおろし・・・」



「だまされんぞ!!」








「落ち着いてくださいと言っておるのです」






みしっ







少佐、ついにキレる。







持っていたアルを、箱ごとマルコーさんに投げつけた。






「アル!」





エドが驚きの声を上げていた。











































「私は耐えられなかった・・・・・・・・・・・・」








『15文字アルアタック☆』(今命名)がクリーンヒットして落ち着いたマルコーさんに、家の中に促され椅子に座る。








「上からの命令とはいえ、あんな物の研究に手を染め・・・そして、が東部内乱での大量殺戮の道具に使われたのだ・・・。本当にひどい戦いだった・・・無関係な人が死にすぎた・・・」









私は東部内乱の時にはこの世界にはいなかったけど、内乱のことを話す大佐や、その復讐をするスカー、そして今話しているマルコーさんの辛そうな表情を見て、どれだけひどかったのかは大体わかる。










「私のした事は、この命をもってしてもつぐないきれるものではない。それでもできる限りの事をと・・・ここで医者をしているのだ」






「いったい貴方は何を研究し、何を盗み出して逃げたのですか」





少佐が聞くと、マルコーさんはひどく辛い表情を浮かべ言った。















「賢者の石を作っていた。・・・私が持ち出したのは、その研究資料と石だ」













「石を持ってるのか!?」





「ああ」






エドが聞くと、マルコーさんは立ち上がり、棚から小さな瓶を取り出した。







「ここにある」






その瓶の中には、紅い水。








「『石』って・・・これ液体じゃ・・・」





そうエドの前で、マルコーさんは瓶の蓋を開け、瓶を傾ける。





当然、液体はそのまま流れ落ちる。









「ええ!!?・・・・・・え?」








流れ落ちたと思われた液体は、机の上で丸い塊になっていた。






それをエドがつつくと、『石』はぷにぷにと震える。




「うわ」






「『哲学者の石』『天上の石』『大エリクシル』『赤きティンクトゥラ』『第五実体』。賢者の石にいくつもの呼び名があるように、その形状は石であるとは限らないようだ」














私も試しにつついてみた。
















・・・・・・なんか不思議な感触。










面白いのでもう一度・・・。









ぷにぷに




・・・・・・・・・・・・・・・も・・・持って帰りたい!!











・・・無理だろうけど。






















「だが、これはあくまで試験的に作られた物でな。いつ限界が来て、使用不可能になるかわからん不完全品だ。それでもあの内乱の時密かに使用され、絶大な威力を発揮したよ」












ふと、あのハゲ教主が頭に浮かぶ。





あのつるっパゲ、あのうるさい笑い声、あの太陽光を反射する頭、あの・・・・・・。





・・・・・・いかんいかん、どうしてもあの頭が印象的すぎて・・・。





問題は、あの指輪の石でしょうよ・・・。








確か再錬成をしようとした時に、指輪つけてた方の腕がリバウンドですんごい事になってた・・・・・・。





あれが不完全品・・・・・・。



















「不完全品とはいえ、人の手で作り出せるって事は、この先の研究次第では完全品も夢じゃないって事だよな。マルコーさん、その持ち出した資料を見せてくれないか!?」






「ええ!?」









エドの言葉を聞いて、マルコーさんが驚く。







「そんな物どうしようと言うのかね。アームストロング少佐、この子はいったい・・・」






「国家錬金術師ですよ」






「こんな子供まで・・・。潤沢な研究費をはじめとする数々の特権につられて資格を取ったのだろうが、なんと愚かな!!」







そう言って落胆するマルコーさん。








「あの内乱の後、人間兵器としての己の在り方に耐えられず資格を返上した術師が何人いたことか!!それなのに君は・・・・・・」





「バカなマネだというのはわかってる!それでも!!・・・それでも目的を果たすまでは針のムシロだろうが、座り続けなきゃならないんだ・・・!!」










右肩を押さえるエド。





そして、マルコーさんに資格を取る決意をするまでの経緯を話した。










「そうか・・・禁忌をおかしたか・・・。おどろいたよ、特定人物の魂の錬成をなしとげるとは・・・君なら完全な賢者の石を作り出す事ができるかもしれん」







「じゃあ・・・・・・!」






「資料を見せる事はできん!」






「そんな・・・!!」






「話は終わりだ、帰ってくれ。元の身体に戻るだなどと・・・それしきの事のために石を欲してはいかん」





「それしきの事だと!?」






「ドクター、それではあんまりな!」







「あれは見ない方がいいのだ。あれは、悪魔の研究だ。知れば地獄を見る事になる」





「地獄ならとうに見た!」






















「・・・・・・・・・だめだ、帰ってくれ」































そう言われたエドの顔を覗き込むと、とても辛そうな表情を浮かべていた。









「・・・・・・帰るぞ」








私達に声をかける。







少佐はアルとトランクを持ち、入り口へと向かった。







「・・・・・・・・・・・・」





「・・・?」





「・・・・・・ごめん、先に外出てて」






「?・・・ああ」












エドたちが外に出たのを確認すると、私は口を開いた。



















「・・・・・・マルコーさん。禁忌を犯して失った身体を取り戻すのは、賢者の石を使えばできる事なんですか?」






「・・・・・・おそらくは・・・」







「・・・・・・じゃあ・・・じゃあ私が・・・・・・私が元の世界に戻るなんて、賢者の石を使っても無理なことは・・・・・・・どうすればいいのかな・・・」









「・・・元の世界・・・?・・・・・・いったい君は・・・」













「・・・せめて・・・・・・少しでも希望があるなら・・・・・・それを、エドとアルの力にしてあげたい。私に希望がない分も、分けてあげたいと思ってます。それがたとえ、悪魔の教えでも・・・・・・」







「・・・・・・・・・」





「・・・・・・なんてね。・・・・・・何かっこいいこと言ってるんだろう私は。貴方にとってはきれい事みたいなものですよね。今の忘れてください。・・・・・・・・・ありがとうございました、さようなら」









ぺこっと頭を下げて、家を出た。








「む、嬢。遅かったな」




「あはは、ごめん。さ、行こ行こ。っていうかなんなの少佐、『嬢』ってー」




ぽんっと少佐を軽く叩くと、駅に向かって歩き出した。













































「本当にいいのか?」






「え?」







「資料は見れなかったが、石ならば力ずくで取り上げる事もできたろうに」





「あ〜〜のどから手が出る位欲しかったよマジで!!でも、マルコーさんの家に行く途中で会った人達の事を思いだしたらさ・・・この町の人達の支えを奪ってまで元の身体に戻っても、後味悪いだけだなーって」







「あはは」





「・・・・・・なんだよ、急に笑ったりして」






「・・・いや、エドらしいなーって」






「あーそうですよ、オレはこういう奴なの。・・・また別の方法さがすさ、な」





「うん」






「そういう少佐もよかったのかよ。マルコーさんの事を中央に報告しなくてさ」





「我輩が今日会ったのは、マウロというただの町医者だ」






しれっと答える少佐。






自然と笑みがこぼれる。






「あーあ、また振り出しかぁ。道は長いよ、まったく」

































「君!」










声が聞こえた方を振り返ってみると、一つの封筒を持ったマルコーさんが、息を切らして立っていた。






「マルコーさん・・・」





「・・・・・・私の研究資料が隠してある場所だ。・・・私も、できる事をしてやりたいとおもったのでね」







そう言って、マルコーさんが私を見る。







「真実を知っても後悔しないと言うならこれを見なさい」







持っていた封筒をエドに渡す。







「そして君ならば、真実の奥の更なる真実に―――――いや、これは余計だな」







首を横に振って言葉をかき消すと、駅の出口に向かって歩いていく。







「君達が元の身体に戻れる日が来るのを祈っておるよ」








その後姿に、エドはぺこんとお辞儀をし、少佐は涙を流しながら敬礼していた。


















マルコーさんの姿が見えなくなってから、エドは封筒の中の手紙を取り出す。






「『国立中央図書館 第一分館   ティム・マルコー』・・・」






「なるほど、『木を隠すには森』か・・・。あそこの蔵書量は半端ではないからな」





「ここに石の手掛かりがある・・・!!」






「兄さん、道は続いている!」




「―――ああ!」


























新たな希望を持って、私達は今度こそリゼンブールへと出発した。















----あとがき-----

管理人 「・・・・・・マルコーさんでした」
エド 「いやーマルコーさん、資料の隠し場所教えてくれてよかったなぁー」
管理人 「・・・・・・何も知らねぇくせに・・・・・・」
エド 「ん?何か言ったか?」
管理人 「イイエナニモ」
エド 「カタコトじゃねぇかよ」
管理人 「カタコトッテナンデスカ。タベレルンデスカ?」
エド 「・・・お前、何か知ってるな!?」
管理人 「マッタクモッテシリマセンデゴザル。シノビタルモノ・・・」
エド 「お前はいつから忍者になったんだ!!」
管理人 「イチュデショウ」
エド 「『いちゅ』?・・・『いつ』、噛んだな・・・」
管理人 「さーて次回のさんはー。ジャン・ケン・ポン!・・・うふふふふふ」
エド 「切り替え早っ!?しかも予告なし!?」

                      終了





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2005.12.18.Sun