「はえー・・・でっかい像・・・・・」
教会に入ると、杖を持った大きな、おヒゲのおじいさん・・・もとい、太陽神レトの像が奥に立っていた。
Act.2 神の代理人
見上げるようにぽけーっと突っ立っていると、横から女性の声が聞こえた。
「あら、たしかさっきの・・・」
その女性の名は、ロゼ。
身寄りが無くて、一年前に恋人を亡くしたっていう何だか可哀想な人。
しかぁし。今や悪のペテンハゲに騙され騙され(エンドレス)な毎日を送っているという・・・。(自己的解釈)
またもやほけーっと自分を見てる私に、ロゼは首を傾げる。
「えーっと・・・どちら様で・・・?」
しばらく沈黙して、やっと私に質問しているんだと気付いて答える。
「あ、あぁ・・・えっと、私は・。初めまして」
ロゼは私に「初めまして」と返すと、エドに話を向けた。
「ここに来たということは、レト教に興味がおありで?」
「いや、あいにくと無宗教でね」
「いけませんよ、そんな!神を信じうやまう事で日々感謝と希望に生きる・・・なんとすばらしい事でしょう!」
自分の胸に手を当て、何事か語り始めた。
極めつけに、
「信じればきっとあなたの身長も伸びます!」
エドに向かって力説。
「んだとコラ(怒)」
「悪気はないんだから」
どうどうとアルはエドを静める。
なんとか落ち着いたエドは、近くの椅子に座る。
「・・・ったく。よくそんなに真正直に信じられるもんだな。神に祈れば死んだ者も生き返る・・・かい?」
「ええ、必ず・・・!」
ロゼの言葉にエドは溜息をつくと、どこからか手帳を取り出し、数個の成分名を読み出した。
「大人一人分として計算した場合の人体の構成成分だ。今の科学ではここまで判ってるのに実際に人体練成にに成功した例は報告されてない。“足りない何か”がなんなのか・・・。何百年も前から科学者たちが研究を重ねてきて、それでも未だに解明できていない。不毛な努力って言われてるけど、ただ祈って待ち続けるより、そっちの方がかなり有意義だと思うけどね」
そこまで言うと、エドは手帳を閉じた。そして話を続ける。
「ちなみにこの成分材料な、市場に行けば子供の小遣いでも全部買えちまうぞ。人間てのはお安くできてんのな」
「人は物じゃありません!創造主への冒涜です!天罰がくだりますよ!!」
ロゼがそこまで言っても、軽く笑って流す。
「あっはっは!錬金術師ってのは科学者だからな。創造主とか神様とか、あいまいなものは信じちゃいないのさ」
その言葉にロゼはむっとする。
「この世のあらゆる物質の創造原理を解き明かし、真理を追い求める・・・。神様を信じないオレ達科学者が、ある意味神様に一番近い所にいるってのは皮肉なもんだ」
「高慢ですね。ご自分が神と同列とでも?」
「――――そういやどっかの神話にあったっけな。「太陽に近づきすぎた英雄は、蝋で固めた翼をもがれ地に堕とされる」・・・ってな」
ああっ・・!いけないっ。何か良くない雰囲気というか気分に!?
「ぎゃーすぅ!(謎)エドぉー!いくら身長が伸びないからって、カミサマに八つ当たりしようなんて考えちゃダメェ――!!」
「はぁ!?何言ってんだオマエ」
「ど、どどどどうしたの!?ッ!?」
いきなりの私の発言に驚いて混乱する二人。
・・・フッ。これで暗ぁーい雰囲気は消えたであろう。
「まっ。今のは聞かなかった事にして、広場に行こーう!!」(拳掲げ)
「「 お、おう―― 」」(つられて拳掲げ)
ワッ
広場に出ると、沢山の人たちが集まっていた。
皆の視線の先にあるレト像の下に、ハゲ教主がいる。
ハゲの頭は光を反射して、一層輝いている。
・・・これぞ、太陽神?
その教主様は、人々の投げた小さな花を持つと両手で包む。
ボッという音がしてその花は大きな向日葵に変わっていた。
「・・・どう思う?」
「どうもこうも、あの変成反応は錬金術でしょ」
「だよなぁ・・・。それにしては法則が・・・」
「・・・ったく。あのハゲオヤジ、眩しいったらありゃしない・・・!」
「「 ・・・・・・ 」」
二人は、自分たちが話してる事とは違う部分を指摘した私を、半ば呆れ顔で見た。
「みなさん、来てらしたのですね。どうです!まさに奇跡の力でしょう。コーネロ様は太陽神の御子です!」
私たちを発見したロゼが声を掛けてきた。
エドは視線を教主に戻す。
「いや、ありゃーどう見ても錬金術だよ。コーネロってのはペテン野郎だ」
「でも法則無視してんだよねぇ」
「う――――――ん、それだよな」
「法則?」
アルの難しい説明が始まった。
全然聞いても理解できないロゼは「?」を浮かべて思考がぐるぐる回ってる。
「えーとね。質量が一の物からは、同じく一の物しか。水の性質の物からは、同じく水属性の物しか錬成できないってこと」
「つまり、錬金術の基本は「等価交換」!!何かを得ようとするなら、それと同等の代価が必要って事だ」
「その法則を無視して、あの教主は錬成しちゃってるんだって」
じれったいので、エドの言葉を奪って言う。
「だからいいかげん奇跡の業を信じたらどうですか!」
少し怒鳴っているロゼを無視して、エドとアルは話している。
「兄さん、ひょっとして」
「ああ、ひょっとすると・・・ビンゴだぜ!」
ごすっ
「でっ・・・痛ぇな!!何すんだ!!!」
「ひょっととかひょっととか、全然判んないんだよォ!ハッキリ喋れェ!!しかもビンゴってなんだァー!まだリーチにもなってないのにィー!仲間外れかちくしょぅー(泣)」(不順小文字ア行五段)
ごす ごす ごす
「落ち着け!仲間外れって何のことだよ!!つーかもう殴んな!縮むだろうが!!!」
「・・・兄さんこそ落ち着こうよ・・・・・・」
チラリと横を見ると、ロゼが私たちの行動(ってかコント?)に唖然としている。
エドは「ああそうだった!」と言ってロゼの方をくるっと向く。
「おねぇさん。ボク、この宗教に興味持っちゃったなぁ!ぜひ教主様とお話したいんだけど、案内してくれるぅ?」
「まあvやっと信じてくれたのですね!」
ゾワッっと身の毛がよだった。さっきとは別人ですヨ、エドサン。
「さあ、どうぞこちらへ」
いかにも胡散臭い師兄さんが、教主と面会する所まで案内してくれるそうだ。
「教主様は忙しい身で、なかなか時間がとれないのですが、あなた方は運がいい」
少し奥まで入ると、周りにいた棒を持っている男たちがバタンとドアを閉めた。
そっちにちらりと目をやっていると、エドが話し出した。
「悪いね、なるべく長話しないようにするからさ」
エドがそう言うと、師兄は懐に手を入れながら笑みを作る。
「ええ、すぐに終わらせてしまいましょう。このように!」
そして、銃を取り出すと、銃口をアルの目の部分に押し付け、引き金を引く。
銃声と、アルの鎧の頭が飛ぶ音が部屋に響いた。
激しい音を立ててアルが倒れる。
その少し遠くに鎧の頭の部分が転がった。
その途端、先程の男たちが、棒で私とエドの動きを封じる。
「師兄!何をなさるのですか!!」
ロゼが師兄に向かって叫ぶ。
「ロゼ、この者達は教主様を陥れようとする異教徒だ、悪なのだよ」
どう見ても、銃口を向けているあんたが悪です!!
「そんな!だからと言って、こんな事を教主様がお許しになるはず・・・」
「教主様がお許しになられたのだ!教主様の御言葉は、我らが神の御言葉・・・。これは神の意志だ!!」
それは神じゃない!!ハゲの意志だぁ――――!!
そんな心の言葉が届くはずも無く、師兄はエドの頭に銃口を向ける。
その時、
「へ――――。ひどい神もいたもんだ」
鎧の手が、師兄の持つ銃のリボルバーを掴んだ。
「んな・・・・・・」
頭を吹き飛ばしたはずの鎧が、動いて喋っている事に、私とエド以外の全ての人間が驚いて声も出ない。
その隙をついて、エドが棒を突きつけていた男の一人を投げ、アルは師兄を拳で殴った。
私も続いて、後ろで驚いている男の一人にエルボーを食らわし、最後にアッパー。
男は後ろでドサッと音を立てて倒れた。
フッ・・・どうよ、この技のキレ。
「ハッ。この私の動きを封じようなんざ、五百万年早いんだよ!」(※普通は生きてられません)
がぃん 「げふ!!」
エドが鎧の頭を逃げる男に投げた。
「っしゃ!!ストライク!」
「ボクの頭!(怒)」
ロゼがアルを指差し、青ざめながら声を上げる。
「どどど、どうなって・・・」
「どうもこうも」
「こういう事で」
アルは、ロゼに鎧の中を見せる。
「なっ・・・中身が無い・・・空っぽ・・・!?」
「これはね、人として侵してはならない神の聖域とやらに踏み込んだ罪とかいうやつさ。ボクも、兄さんもね」
「エドワード・・・も?」
「ま、その話はおいといて」
ぽりぽりと頭を掻くエド。
「神様の正体見たり、だな」
「そんな!何かの間違いよ!」
「ここまでされて間違いなんてあるかいっ!!だー!もうあのハゲぇ―――!!」
「あ――も――このねぇちゃんはまだペテン教主を信じるかね」
どうしても、あのツルリンピカーンなハゲ教主は善人だと言い切るつもりらしい。
「ロゼ、真実を見る勇気はあるかい?」
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2005.08.10.Wed