「ロゼの言ってた教主の部屋ってのはこれか?」










「多分そうでしょうねぇ。くっそう!あのハゲめぇ――!!」










「お前、さっきからそれ言ってばっかだぞ」





























Act.3 教主の野望






























ぐちぐち言っていると、ギ・・・と音を立てて、部屋の扉が開いた。










「へっ。「いらっしゃい」だとさ」










部屋に足を踏み入れると、扉はまた音を立てて閉まった。















「神聖なる我が教会へようこそ。教義を受けに来たのかね?ん?」











広い部屋の奥には階段があり、そこから余裕を感じさせるように教主が降りてきた。











「ああ、ぜひとも教えて欲しいもんだ。せこい錬金術で信者をだます方法とかね!」











「・・・・・・さて、なんの事やら。私の「奇跡の業」を錬金術と一緒にされては困るね。一度見てもらえばわかるが・・・」










「見せてもらったよ」









教主の言葉を切ってエドが話し出す。









「で、どうにも腑におちないのが、法則を無視した錬成が、どういう訳か成されちゃってるって事なんだよね」









「だから錬金術ではないと・・・」










「そこで思ったんだけど。“賢者の石”使ってんだろ?」











その言葉に、頭を掻いていた教主の指がぴくっと動く。










「たとえば、その指輪がそうだったりして?」











また、教主の指が、ぴぴくっと動いた。










「ふ・・・流石は国家錬金術師。すべてお見通しという訳か」








どうやら知らばっくれるのはやめたらしい。
 







教主は指輪をはめた左手の甲を私たちに見せる。









「ご名答!伝説の中だけの代物とさえよばれる幻の術法増幅器・・・。我々錬金術師がこれを使えば、わずか代価で莫大な錬成を行える!!」










「・・・・・・・・・・・・・・・・・・さがしたぜェ!!」








エドが賢者の石の方を睨む。








「ふん!なんだそのもの欲しそうな目は!?この石を使って何を望む?金か?栄誉か?」








「あんたこそ、ペテンで教祖におさまって何を望む?金ならその石を使えばいくらでも手に入るだろ」









「金ではないのだよ。いや、金は欲しいが、それはだまっていても私のフトコロに入って来る・・・。信者の寄付、という形でな」










結局欲しいんじゃないか、金。










「むしろ私のためなら、喜んで命も捨てようという柔順な信者こそが必要だ」








そして喜ばしそうに笑みを作り、顎を撫でる教主。









「すばらしいぞぉ!!死をも恐れぬ最強の軍団だ!!!準備は着々と進みつつある!見ているがいい!あと数年の後に、私はこの国を切り取りにかかるぞ!!」











「ははははは」と豪く大きな声を出し、教主は笑う。




もう野望は叶ったも同然のように。












「いや、そんな事はどーでもいい」










上機嫌な教主の雄叫びに近い笑い声をストップさせたのは、エドのこの一言。








ぺいっと腕と手を左側へ、何かを捨てるような動作をする。








「どうッ!?」








どーでもいいと発言されて、教主のピッカリな頭にも日の丸の旗が・・・。






「我が野望を、「どーでもいい」の一言で片付けるなぁ!!きさま、国側の・・・軍の人間だろが!!」







終いには身を乗り出してエドに向かって叫ぶ。








「いや――、ぶっちゃけて言うとさ。国とか軍とか、知ったこっちゃーないんだよねオレ」









流石だエド、軍に絶対服従と言われても、そこまで投げやりになれるなんて。







ふと隣を見上げれば、アルが「あー」と言うように、人差し指で頬を掻いている。







ふっ・・・苦労するねキミも。








「単刀直入に言う!賢者の石をよこしな!そうすれば、街の人間にゃあんたのペテンはだまっといてやるよ」







「はっ!!この私に交換条件とは・・・。さきまの様なよそ者の話など、信者どもが信じるものか!」







私がアルを見上げている時も話は続いている。






「奴らはこの私に心酔しておる!忠実な僕だ!きさまがいくら騒ぎたてても、奴らは耳もかさん!!そうさ!馬鹿信者どもはこの私にだまされきっておるのだからなぁ!!」








また「うはははは」とどデカイ声で笑うハゲ教主。今度は『う』付き。





うわっ・・・唾飛んでるよ。汚ねーよ、うるせーよ、黙れよ。










「いや―――――さすが教主様!いい話聞かせてもらったわ」







全然感心して無い表情で、パチパチと途切れ途切れの拍手をするエド。






アルがエドの話に合わせて、鎧の前の部分の止め具をはずす。






「たしかに信者はオレの言葉にゃ耳もかさないだろう。けど!」






ガシャ!と音を立てて鎧の前の部分を置くと、アルの鎧の中から隠れていたロゼが出てくる。





なんかキツそう・・・。









「彼女の言葉にはどうだろうね」








そのロゼを親指で差しながら言う。









「!?ロゼ!?一体何がどういう・・・・・・・・・・・・」










おお、驚いてるみたいだ。







「教主様!!今おっしゃった事は本当ですか!?私達をだましていらっしゃったのですか!?」








鎧から身を乗り出して叫ぶロゼ。







「奇跡の業は・・・神の力は、私の願いをかなえてはくれないのですか!?あの人を甦らせてはくれないのですか!?」







ロゼの目には涙が浮かんでいる。





「ふ・・・たしかに神の代理人というのは嘘だ・・・。だがな、この石があれば今まで数多の錬金術師が挑み失敗してきた生体の錬成も・・・お前の恋人を甦らせる事も可能かもしれんぞ!!」









「ロゼ、聞いちゃダメだ!」






「ロゼ、いい子だからこちらにおいで」





「行ったら戻れなくなるぞ」





「さぁどうした?おまえは教団側の人間だ」





「ロゼ!」














ええ――――と・・・なんか物凄い言葉の攻防戦になってるけど・・・。私も何か言った方がいいのかなぁ・・・・・・?













「おまえの願いを叶えられるのは私だけだ。そうだろう?さあ!!」











この教主の言葉で、ロゼは教主の方へ歩き出す。








隣ではエドが「やれやれ」という風に溜息をついて頭を押さえている。









「三人ともごめんなさい。それでも私にはこれしか・・・これにすがるしかないのよ」






「いい子だ・・・本当に・・・」





































「ストォ――――ップ!!」





















教主の言葉は私の声で掻き消された。









「ちょい待ち!そこのハゲ!!お前は流れ星かってーの!そんな簡単に人の願い叶えられるわけないでしょうが!!あの物凄く速いお星様が消える前に、三回願いを言い切らなきゃいけないんだぞ!!ああ、そうか、そうだね、今気づいたよ。あんたはステキなお星様だ。特に昼間がいっそう輝いてるよね!・・・・・・はんっ、昼に星が出るか!!このツルリンパゲ!!!









一人爆発ノリツッコミ。








「ま、待て。お、お、抑えろ、い、今は抑えろ。な、な?」















心なしか声震えてるよ、口元歪んでるよ?






まさか怒ってんの?(ううん、その逆ですよ。 by通りすがりの虫さん)





おや、こんな所に蚊が・・・。(冷笑)





















「ふっ・・・では、わが教団の将来をおびやかす異教徒は、すみやかに粛清するとしよう」










お、立て直した。












そう言うと教主は、斜め後ろにある『HIRAKEGOMA』と書かれたレバーを、ガコンと下に引いた。









そしてどこからか金属が開く音と、鞭の様な何かが床を叩きつける音が聞こえてきた。












「この賢者の石というのは、まったくたいした代物でな、こういう物も作れるのだよ。合成獣を見るのは初めてかね?ん?」


















部屋の奥から出てきたのは、上半身がライオン、後ろ足が鳥で、ワニの尻尾がある動物。














「こりゃあ丸腰でじゃれあうにはちとキツそうだな、と」








エドは両手を合わせ、床にぺたっとつけ槍を錬成した。






「うぬ!錬成陣も無しに敷石から武器を錬成するとは・・・。国家錬金術師の名は伊達ではないという事か!!だが甘い!!」








合成獣の鋭い爪で槍とエドの左足が切り裂かれる。







「ぐ・・・」







「うはははは!!どうだ!!鉄をも切断する爪の味は!?」






「エドワード!!」




















「・・・なんちって!」





「!!?」





不敵にエドが笑うと、合成獣の爪が音を立てて折れる。






次の瞬間には、エドが左足で合成獣の腹に蹴りを入れていた。






軽く悲鳴を上げ、吹き飛ぶ合成獣。




「あいにくと特別製でね」







「・・・・・・ッ!!?どうした!!爪が立たぬなら噛み殺せ!!」








教主の言葉と共に、合成獣が唸り声を上げてエドの右腕に噛み付いた。






合成獣はギリギリと音が聞こえるほどに腕を噛み続けているが、みるみるうちに表情が豹変していく。






そして合成獣を噛み付かせたまま、エドは右腕を持ち上げる。









「どうしたネコ野郎。しっかり味わえよ」










そう言って、合成獣の顎に蹴りを入れた。
















「ロゼ、よく見ておけ。これが人体錬成を・・・。神様とやらの領域を侵した咎人の姿だ!!」












エドは、合成獣の攻撃で破れてしまった服を引っ張る。







そこから覗く鋼の腕。





その服を思い切り破いた。










「鋼の義肢“機械鎧オートメイル”・・・。ああそうか・・・・・・鋼の錬金術師!!












「降りて来いよド三流。格の違いってやつを見せてやる!!」
























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2005.09.17.Sat