私達は汽車に揺られていた。































「・・・だーれも乗ってないね」




「ほーんと、すっからかん・・・」



「うわさには聞いてたけどこれほどとは・・・。だいたいこんな所に観光もないだろうけどな」





じゃあ何で来たんですか!という発言をあえて私は飲み込んだ。





「“東の終わりの街”ユースウェル炭鉱」






























Act.5 東の終わりの街






























「なんか・・・炭鉱っていうともう少し活気あるもんだと思ってたけど・・・」







「みなさんお疲れっぽい・・・」






エドとアルは炭鉱を見回しながら言う。






・・・・・・あ。












「あ、あ――エド〜?」





「・・・ん?どうした








「そこにいると危な・・・」










ゴン







「おっとごめんよ」






「いよ・・・・・・ってもう遅いよね・・・」






私よりちょっと年下の男の子が運んでいた木材が、エドの頭に当たった。






ああ・・・エドの脳細胞が死滅していく・・・・・・。









「いてーなこの・・・」






「お!!」





少年は目を輝かせて、エドに色々と詰め寄っている。






「何?観光?どこから来たの?メシは?宿は決まってる?」





「あ、いや、ちょっと・・・・・・」






「親父!客だ!」






「人の話聞けよ!!」






まったくもってその通り!!







高い位置で作業していた親父さんが止まる。






「あー?何だって、カヤル」





「客!金ヅル!」





「金ヅルってなんだよ!!」





エドの言葉を聞くことなく、親父はヘルメットを外し、にっと笑う。





「おう!」









「おう!」じゃないだろ、「おう!」じゃ!!























なんやかんやで私達は強制的に、話を聞かないペアレント・アンド・チャイルドに店まで連行される羽目に。









前を、少年・名はカヤル。が歩いている。






くそう、この背中が憎らしい。






私はカヤルの肩に手を置き、話しかけた。









「あー、カヤルって言ったっけ?あのさ――」






言いかけた私を振り向き、次に出た言葉。





「何?金ヅルの姉ちゃん」


























金・・・ヅル?





















「金ヅルってなんだ金ヅルってなんだ金ヅルってなんだ、私はツルじゃないぞ人間だ、そういたって私は人間、え?そういう意味じゃない?そんなの知らないね、とりあえず金ヅルって言葉を取り消してもらいたいな、私にはという立派な名前があるんだからね、あ、そうそうこれから私のことを金ヅルなんて呼んだらただで済むと思うなよ?わかったかガキ」(一息)









「・・・・・・――――!!」








「・・・ん?どうした、カヤル」






硬直したカヤルに気付いて、親父・(たしか)ホーリングが声をかける。







「・・・な、なんでも・・・ない・・・・・・」








なんでもないとは言い難い表情でカヤルは答えた。











































ホーリングの店はムサいオジサン共でいっぱいだった。大勢でお酒を飲んだりしている。









「いや、ホコリっぽくてすまねえな。炭鉱の給料が少ないんで、こっちと二足のワラジって訳よ」







「何言ってんでえ親方!その少ない給料を困ってる奴にすぐ分けちまうくせによ!」




「奥さんもそりゃ泣くぜ!」




「うるせぇや!!」




「文句あんなら、酒代のツケさっさと払え!!」






わははははははは





なんだか付いていけないテンションだ。大人って恐ろしい・・・。








「えーと、一泊二食の三人分ね」





オヤジ共の騒ぎはお構い無しに、女将さんが注文を聞いてくる。






「いくら?」





「高ぇぞ?」






ビール片手ににやりと笑うホーリング。





「ご心配なく。けっこう持ってるから」





「30万!」






どが―――――





エドが崩れ落ちた。







私が加わって20万だったのが+1人10万で30万ね・・・・・・。






「ぼったくりもいいトコじゃねえかよ!!」






「だから言ったろ、「高い」って」






「いや言ったけどさ、高すぎ!!」






そんなさらりと言われても!





「めったに来ない観光客には、しっかり金を落としてってもらわねえとな」




「冗談じゃない!他あたる!」





「逃がすか金ヅル!!」




がしっとエドの頭を掴むホーリング。






「あきらめな兄ちゃん。よそも同じ値段だよ」




















・・・・・・全てぼったくり店!?






















































「・・・・・・・・・足りん・・・」











財布を開いて中身を確認するエド。(しかもガマ口・・・)






結構入ってるな〜。(されどガマ口・・・)














「こうなったら、錬金術でこの石ころを金塊に変えて!」





「金の錬成は国家錬金法で禁止されてるでしょ!」




「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」





「兄さん悪!!」







アルのトンガリがエドの額に刺さってる・・・・・・。



・・・・・・・・・あ。










「あ――もう遅いよ・・・」





「「 へ? 」」





私の指差した場所にはカヤルが。いつの間にやらエドとアルの間に割って入っている。












「親父!この兄ちゃん錬金術師だ!!」








あーあ、バレちゃった。































パン!






両手を合わせるエド。






見守るカヤルとおっちゃん一人。





机の上にはボキリと折れたツルハシ。









バシ









錬成反応の光が現われて、一瞬のうちにツルハシがピカピカの元通りになった。











周りからは大歓声。


















「いやあ嬉しいねぇ!久しぶりの客が錬金術師とは!」








料理を運びながらホーリングが言う。






「俺も前にちょいとかじっててな。まぁ俺には才能が無かったんで、研究はやめちまったが。術師のよしみで代金サービスしとくぜ」







「やった!」







「大まけにまけて、15万」





「「まだ高いよっ!!」」





見事にツッコミがハモる。




確かに半額にはなったけどさ、高いもんは高いよ。








「そういや、名前聞いてなかったな」




「あ、そうだっけ」







今にも「いただきまーす」状態のエドは、フォーク&ナイフ構えのまま言った。







「エドワード・エルリック」







そしてフォークとナイフを・・・。








さっ







がち








・・・がち?







見ると、エドが机を刺していた。





だめだよエド、机は食べらんないよ。






しかしよく見ると、ホーリングが肉の皿を取り上げていた。






ホーリングは笑顔のまま。






「錬金術師でエルリックって言ったら―――国家錬金術師の?」






なんか『国家錬金術師』って単語を出した途端、周りの空気が変わったような・・・。








「・・・・・・まあ、一応・・・・・・」






エドはおそるおそるスープのカップを取ろうと手を動かす。




先程のフォークは刺さったままだ。






さっ








またホーリングがもう片方の手で取り上げた。













「なんなんだよいったい!」











はっ!後ろに黒いおっさん達の影が・・・・・・!!









「出てけ!」







ぺっと私達は店の外に放り出された。











「こらー!!オレたちゃ客だぞ!!」







「か―――ぺぺぺっ!!軍の犬にくれてやるメシも寝床も無いわい!!」







「き、汚っ!唾飛ばすな――!!」






「あ、ボクは一般人でーす。国家なんたらじゃありませーん」






アル挙手。





「おおそうか!よし入れ!」






「態度違っ!?」




「裏切り者っ!!」











そのままアルは店の中へと入っていった。









取り残される私達。












「・・・・・・・・・・・・」





「・・・・・・・・・おい、





「ん?何?」





「お前は入らないのか?」





えっ!?なんて酷なことを言うの、この人は!!あんな唾飛ばしのむさ苦しいおっさん共の中に女一人入れだなんて!!」





「・・・そ、そうか・・・」






「うん、そゆこと」






「・・・・・・・・・・・・」





「・・・・・・・・・・・・」


















無言。










よもやネタが尽きてしまったのか!?











えと、えーと・・・。










「い、いやー、寒いねぇ・・・流石に夜は」






「・・・・・・?寒いなら上着貸すぞ?」








!?






・・・いかんいかん。それじゃエドが凍えてしまう。









「い、いや、結構です!!」






・・・・・・ダメか、ほ、他にネタ・・・。






「え、えと、そ、そのトランク何が入ってんのー?」






私はエドのトランクを指差す。






「・・・旅行道具一式。オレの服やアルのオイルとか」






「へ、へぇー。色々入ってんだねー」










話終わっちゃった!?











・・・話が続かない・・・・・・どうしよ・・・。














うーん、何か無いか何か無いか・・・。








「・・・・・・





「は、はいィ!?」





これじゃ、あのハゲ教主と同じ反応だよ・・・・・・。









「リオールであのハゲ教主に邪魔されて聞けなかったけど・・・なんでお前あの時無事だったんだ?」




「あ、アノトキ?」







言葉がぎこちない。いかん、直さねば・・・。





しかもそのハゲ教主の話とは・・・。






「合成獣が出てきた部屋で、お前は銃弾の雨にも関わらず、無傷で無事だった」






なんか「無傷かよチクショウ」って感じに聞こえるんデスガ・・・・・・気のせい?







「で、お前の目の前には氷の壁があったような気がしたんだけど・・・」






その時見た左手首のリストバンド。





「あ。そういえばその時これが光ってたんだよ」





「・・・?これ、錬成陣だよな」





「たぶん」






「たぶんて」






私はあの時のことを思い返した。





「あの時はね、銃向けられて、もうダメだって思って目を瞑ったんだよね。んで、目を開けたら目の前には氷の壁。ふとこのリストバンドを見たら、錬成陣が光ってたと」




「はぁ・・・お前は錬金術師じゃないのか?」





「わからない。けど、錬金術が使えるんならこれからも使っていこうかなー?夢だったし」







「ふーん・・・そうか」





「うん」








私は今から錬金術師になるぞ!





人生一大決心。























ぐぅぅぅぅぅぅ〜







エドのお腹が鳴った。







「はらへった・・・・・・・・・」










さいですか。







ぐぎぅ〜〜〜








「ちくしょ〜〜アルの奴ぅぅ〜〜」







ぐずるエド。いつの間にかトランクにもたれかかっている。










スッとエドの前にトレーが差し出された。







「ボクに出されたのこっそり持ってきた」






「弟よ!!」





「ゲンキンだな、も――」






アルに抱きつくエド。





「あ、兄さん。にも分けてあげてよ?」





「え、いや、私は大丈夫だよ。エドほどお腹すいてないし」








「そう?」と心配そうに見てくるアル。





私はもう一度「大丈夫」と言った。







「兄さん、実はね。この炭鉱の権利者が―――」









アルから、店で聞いてきたと思われるヨキ中尉についての話を聞く。










「ふーん・・・。腐ったお偉いさんってのはどこにでもいるもんだな」






「おかげで充分な食料もまわって来ないんだってさ」






「・・・・・・・・・そっか」





エドは口に入れようとしたサンドイッチを下ろす。







「しかしそのヨキ中尉とやらのおかげで、こっちはえらい迷惑だよな。ただでさえ軍の人間てのは嫌われてんのに」






「そうだね、それが無ければエドも放り出されずに済んだのにね」







「国家錬金術師になるって決めた時から、ある程度の非難は覚悟してたけどよ。ここまで嫌われちまうってのも・・・」




「・・・・・・・・・・・・ボクも国家錬金術師の資格とろうかな」




「やめとけやめとけ!針のムシロに座るのはオレ一人で充分だ!・・・軍の犬に成り下がり―――か。返す言葉もないけどな」




「おまけに禁忌を犯してこの身体・・・。師匠が知ったらなんて言うか・・・」







「はあ・・・」と溜息をついて、少し固まった(きっと何言われるか想像してるんだ)と思ったら、






「こっ・・・殺される・・・・・・・・・!!」







ガチガチに震えながら冷汗だらだら。






えっ・・・それ言うどころじゃないんじゃないか!?



















「どけどけ!!」






ドカ ドカッ







何か店の方が騒がしい。










店に行った時は、カヤルがヨキ中尉に濡れた雑巾を投げつけている所だった。







「中尉!!・・・っのガキ!!」








ヨキ中尉は雑巾を取り、カヤルに平手打ちをする。








カヤルは床に倒れこんだ。







「カヤル!!」






駆け寄るホーリング。







「子供だからとて容赦はせんぞ」








ヨキ中尉が合図すると、部下Aがカヤルに向かって剣(といってもサーベル)を振り下ろす。





「みせしめだ」















やばっ・・・。






私は近くにあった物を細剣に錬成して、部下Aとカヤルの間に入って剣を受け止める。









ガキン







「!!」





















「・・・・・・力弱いなー。こんなんでよく軍人やってられるよね」








「・・・姉ちゃん」








後ろから声を掛けられ、振り向いて笑顔で言う。





「大丈夫?カヤル」




「う、うん」






確認すると、剣を振り下ろしてる部下Aに視線を戻す。












「・・・・・・・・・剣術は私の分野じゃないけど、ある程度は従兄から教えてもらってるからね」













そう言って、細剣で剣をもう一度叩くと、剣はベキンと折れた。










「なっ・・・なんだ、どこの小娘だ!?」









「・・・通りすがりの小娘です。そしてオレは通りすがりの小僧」









エドがスープを啜りながらフォローする。





「お前らには関係ない、下がっとれ!」







「いや、中尉さんが見えてるってんで、あいさつしとこうかなーと」








ポケットから、エドは銀時計を取り出す。







「これがなんだと・・・」








まじまじと見るヨキ。




次の瞬間には、「げっ」という表情になる。






「中尉殿、なんですこのガキ・・・」





「馬鹿者!!」




ゴン





「でっ」







エドを指差した事情を知らない部下Aが、さびしい頭を拳で殴られる。


平手打ちのほうがいい音すると思うんだけどなー。





なんだかやけに顔を近くしてひそひそと話し始めた。










「部下が失礼いたしました、私この街を治めるヨキと申します。こうしてお会いできたのも何かの縁、ささ、こんな汚い所におらずに!田舎街ですが立派な宿泊施設もございますので!」





すすす・・・と部下との内緒話を終え、エドに近寄るヨキ。






遠くでカヤルが「汚くて悪かったなー」と言っている。









「そんじゃお願いしますかねー。ここのおやじさん、ケチで泊めてくれないって言うんで。ほら、行こうぜ






「え?う、うん・・・」







「いいか貴様ら、税金はきっちり払ってもらうからな!」






私とエドは、ヨキとその部下A・Bに連れられて店を後にした。

























-----あとがき-----

管理人 「ユースウェル炭鉱編、前半終わりましたー」
エド 「おい、従兄って誰だ?」
管理人 「・・・誰でしょう」
エド 「・・・・・・・・・・・・」
管理人 「ああ・・・無言が痛い・・・」
アル 「まあ、話が進めば出てくるんだよね?」
管理人 「おお!アルいい所に!!」(涙)
アル 「出てくるよね?」ずいっ
管理人 「近いよ怖いよデカイよアル・・・」(後ずさり)
エド 「ま、今はこのあとがきが三日ならぬ三回坊主にならないことを祈るか」
管理人 「うん、ホントに、ホントに後で出すから・・・・・・・・・いつ出るか知らんけど」
エド・アル 「・・・・・・・・・・・・」
管理人 「・・・む、無言が痛ひ・・・・・・・・・」





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2005.10.10.Mon