「今回の件でひとつ貸しができたね、大佐」







「にやりーん」とエドが意地悪く笑う。








「・・・・・・君に借りをつくるのは気色が悪い」







司令室の椅子に、手を組みながら座っていた大佐が溜息をつく。






























Act.8 綴命の錬金術師






























「いいだろう、何が望みだね」





「さっすが♪話が早いね」








わざとらしいぞ、エド・・・。







「この近辺で、生体錬成に詳しい図書館か錬金術師を紹介してくれないかな」






「今すぐかい?せっかちだな、まったく」





そう言いつつ、大佐は席を立ち、棚からファイルを取り出す。






「オレたちは一日も早く元に戻りたいの!」





「久しぶりに会ったんだから、お茶の一杯くらいゆっくり付き合いたまえよ」




「・・・野郎と茶ぁ飲んで何が楽しいんだよ・・・」





「・・・つれないね。との出会いでも祝おうと思っていたのだが」




「私?」






急に自分の名前を言われ、ぽかんとしてしまう。







「まぁ鋼のがそう言うのなら、私と二人で行くまでだ」







冗談としては取りにくい表情で言う。





なんか二人のトコ、強調されてませんでした?









「・・・・・・あのなぁ!」







「ええとたしか・・・ああ、これだ」







怒鳴ろうとしたエドの言葉を遮って、大佐が書類を出す。











「『遺伝的に異なる二種以上の生物を代価とする人為的合成』―――つまり、合成獣錬成の研究者が市内に住んでいる。『綴命の錬金術師』ショウ・タッカー。2年前、人語を使う合成獣の錬成に成功して、国家錬金術師の資格を取った人物だ」







「人語を使うって・・・・・・人の言葉を喋るの?合成獣が?」






「そのようだね。私は当時の担当じゃないから実物を見てはいないのだが、人の言う事を理解しそして喋ったそうだよ。・・・ただ一言、「死にたい」と。その後、エサも食べずに死んだそうだ。まあとにかく、どんな人物か会ってみる事だね」








話が一通り終わると、司令部から出て車に乗り込む。




早速、そのタッカーの所に行くって事だね。
















































カラ カラン












大佐が玄関の呼び鈴を鳴らした。






隣ではエドがタッカー邸を見上げて、「でっけー家」などと呟いている。










ガサッ






ん?







横の茂みからなにやら物音が・・・。







次の瞬間、茂みから大きな犬が現れ、エドに飛びかかった。









「ふんぎゃああああああああああ!!!」








エドの叫びが庭中に響く。













あううぅぅ〜







見事に犬に乗っかられちゃったエド。





面白いから放っとこう(笑)。











「こら、だめだよアレキサンダー」







「わぁ、お客様いっぱいだねお父さん!」




「ニーナだめだよ、犬はつないでおかなくちゃ」






玄関のドアが開き、中からタッカーとその娘のニーナが出てきた。





















































私達はタッカーに勧められた椅子に腰掛ける。










「いや、申し訳ない。妻に逃げられてから、家の中もこの有様で・・・・・・」







この有様・・・って、蜘蛛の巣とか見えるんですけど、そこら中に!




いくらなんでも限度ってもんが・・・・・・。














「あらためて初めまして、エドワード君。綴命の錬金術師、ショウ・タッカーです」









「彼は生体の錬成に興味があってね。ぜひタッカー氏の研究を拝見したいと」






「ええ、かまいませんよ。でもね、人の手の内を見たいというなら、君の手の内も明かしてもらわないとね。それが錬金術師というものだろう。・・・なぜ生体錬成に興味を?」






「あ、いや彼は・・・」






「大佐」






慌てて弁解しようとする大佐を手で制すエド。




そして、上着のボタンを外し右腕の機械鎧を見せる。






「タッカーさんの言う事ももっともだ」





「・・・・・・・・・・・・なんと・・・・・・それで『鋼の錬金術師』と――――――」












それからエドはタッカーに、人体錬成の事を話した。






元から知っていた私でも、直接エド達から聞くのは、とても重く感じる。












「そうか母親を・・・辛かったね」






「彼のこの身体は東部の内乱で失ったと上には言ってあるので、人体錬成の事については他言無用でお願いしたい」






「ああ、いいですよ。軍としても、これほどの逸材を手放すのは得ではないでしょうから。では・・・役に立てるかどうかはわかりませんが、私の研究室を見てもらいましょう」















































「うわぁ・・・」(冷汗)







部屋の中はたくさんの合成獣がいた。




頭が二つある猿みたいな動物に、飛び跳ねるのが上手そうな犬みたいな動物。




他にも、ワニと何かの合成獣とか。








「いやおはずかしい。巷では合成獣の権威なんて言われてるけど、実際のところそんなに上手くはいってないんだ」








タッカーはその部屋を出て、もう一つの部屋の扉を開ける。





「こっちが資料室」





「お―――!!」





部屋の中を覗き込むと、エドが声をあげた。







「すげ〜〜〜」




「自由に見てていい。私は研究室の方にいるから」







「よーし、オレはこっちの棚から」





「じゃあ、ボクはあっちから」








早速エドは本を取り、目を通し始めた。






「私は仕事にもどる。君達には、夕方迎えの者をよこそう」





「はい」




アルが返事をする。エドは既に本の世界だ。












































大佐が帰ってから、数十分が経過した。








「ああ・・・暇」







「外に行こう」と一人で呟き、玄関のドアを開けた。







「ばうばう」




「あ!お姉ちゃん、遊ぼー!」






ニーナが笑顔で駆け寄ってくる。




私もつられて笑顔になる。






「うん、いいよ。私は、よろしくねニーナ」






「ばうー」





「お、アレキサンダーもよろしくねー」






そう言ってアレキサンダーの頭を撫でてやる。







「ニーナもアレキサンダーも可愛いねv」






お姉ちゃんもかわいいよー」






にこにこと迷いもなく言ってくるニーナ。




思わずアレキサンダーの頭の毛を抜いてしまいそうになった。危ない危ない。








他人にかわいいなんて言われたのは小学生以来だわ。・・・・・・たぶん・・・。










それから、追いかけっこにかくれんぼ等々、初心に返って遊び尽くした。







途中でアルも加わり、またまた遊んだ後、資料室の中へ。









「ぎにゃ―――〜〜!!」









「あ、兄さん」








アルの後ろから顔を出してみると、エドがアレキサンダーに潰されていた。






「「あ、兄さん」じゃねーよ!!資料も探さねーで何やってんだ!!」





「いやぁ、ニーナ遊んでほしそうだったから」




「なごむなヨ」(怒)






「アレキサンダーも、お兄ちゃんと遊んでほしいって」





アルに肩車されたまま、ニーナがエドに言う。




アレキサンダーがエドの顔をべろべろと舐めた。







「ふっ・・・この俺に遊んでほしいとはいい度胸だ・・・。獅子はウサギを狩るのも全力を尽くすと言う・・・。このエドワード・エルリックが、全身全霊で相手してくれるわ犬畜生めッッ!!!






本当に全力でアレキサンダーを追いかけていく。






「「(子供だ・・・)」」





少なくとも私達はそう思った。


















































「よぉ大将、迎えに来たぞ。・・・・・・何やってんだ?」







あああぁああぅ







「あーあ、また潰されちゃってるよ」








「いや、これは資料検索の合間の息抜きと言うか、なんと言うか!」





がばっと起き上がるエド。





「で、いい資料はみつかったかい?」







「・・・・・・」






無言のエドの頭に、アレキサンダーの手が乗せられた。







「・・・・・・・・・・・・また明日来るといいよ」









「お兄ちゃんたち、また来てくれるの?」






「うん、また明日遊ぼうね」





「じゃあね、ニーナ」






ばいばいと手を振る。





ちらりとエドを見ると、フラフラと今にも倒れそうな足取りで歩いていた。

















































「お前が大佐の言ってたか?」







咥えタバコがトレードマークのハボさんが聞いてくる。







「うん、そうだよ。。よろしく」






「ああ、俺はジャン・ハボックだ。階級は少尉」








「・・・・・・おい、少尉。大佐が言ってたって・・・・・・?」






「ん?あー、「鋼のがあんな可愛い娘を連れているなんて・・・!仕事が無ければー」と半泣き声でペン走らせてたな」







さすがハボさん。見事な棒読みだ。









「・・・ったく、いつもサボってんのがいけねーんだよ。自業自得だ」







「ははは、それ大佐に言ってやれよ大将ー」







「言われずとも」









その後、エドとハボさんは笑い合っていた。





大佐の陰口言うのは構わないけど、車だけはしっかり運転してよねー。















































「やっほー、アル。どう?何かいいの見つかった?」





「あ、・・・ここはいろんな資料があるよね。まだ何とも言えない・・・・・・兄さんは?」




「ああ、エド?何度声かけても気付かないんだもん。すっかり集中しきっちゃってさ、つまんない」




「うーん・・・。つまらないんなら本でも読みなよ。暇つぶしにさ」





そう言って適当な本を差し出す。






「あー・・・えっと・・・無理だよー。私、英語の成績全然ダメなんだよー?」






あははと笑いつつ、渡された本を開く。





やっぱり横文字がずらり。







・・・・・・でも一つ違ったのが、その横文字が難なく訳す事が出来る事だ。









「・・・・・・あれ?」





「どうしたの?





「・・・・・・どうしてか読めるんだよ、この本の文字」







「え?どうしてかって・・・やっぱり異世界は言語が違うの?」








「まあ、そんなもんだけど・・・。なんでだろ、元の世界では全然、辞書常備じゃなきゃ読めなかったのに・・・・・・」






「じ、辞書常備・・・」







本の文字を凝視してると目の錯覚か、その文字が日本語に見えてきた。





おかしい、明らかにおかしい。









「・・・・・・ま、読めるに越したことはないか」





その本をパタンと閉じた。











































「へー、お母さんが2年前に・・・」





「うん。「実家に帰っちゃった」ってお父さんが言ってた」





「そっか、こんな広い家にお父さんと二人じゃさみしいね」




「ううん、平気!お父さん優しいし、アレキサンダーもいるし!」




そう言って、ニーナはアレキサンダーを抱きしめる。




「でも・・・お父さん、最近研究室にとじこもってばかりでちょっとさみしいな」









エドは読んでいた本を下ろし、首を鳴らす。





「・・・・・・あ――、毎日本読んでばっかで肩こったな」






「肩こりの解消には適度な運動が効果的だよ、兄さん」




「そーだなー。庭で運動してくっか」




立ち上がり、アレキサンダーをびし!っと指差す。




「オラ犬!!運動がてら遊んでやる!」




「さ、ニーナも」





アルが誘うと、ニーナは満面の笑みで答えた。
















「ばうー」



「どわー」







アレキサンダーに追いかけられ、潰されるエド。





すっかり気に入られちゃって・・・・・・(笑)。











































夕方、またハボさんがお迎えに来た。







「よぉ大将。また潰されてんなー」





あっはっはと笑うハボさん。





「もしかしてエド、乗り心地いいんじゃない?小さくて




「小さくねえー!」








「ねぇ、お姉ちゃん達また明日も来てくれる?」





ニーナが私を見上げて言う。






「うんまた明日来るよー。明日も遊ぼうね」





「うん!」





笑顔で答える。ニーナも笑顔で返してくれた。









そして、タッカー邸を後にした。









































・・・・・・なんだろう?何かが引っかかってる。




















明日は、会えるよね?ニーナに。















----あとがき-----

管理人 「潰されエドー」
エド 「うるせぇ」
管理人 「やっぱりさんの言う通り、乗り心地が良いんじゃないんすか?小さくて
エド 「誰がアリンコぷちぷちどチビか!!」
管理人 「(ぷちぷち・・・?)」
エド 「ったく。前回はオレの名前を豆にしやがって。名前変えんのは大佐だけで十分なんだよ」
管理人 「あーそうですかーすんませーん」(棒読み)
エド 「やる気ねぇ返事だな、おい」
管理人 「だってさ、次回さ、ものすごくさ、重い話になるんだもん」
エド 「・・・いわゆるシリアス?」
管理人 「そーそー。シリアス書くの苦手ー」(泣)
エド 「それをやり遂げるのが仕事ってもんだろ。ちゃんと書かなかったら殴るからな
管理人 「エドワード君、恐いです・・・・・・」

                      終了





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2005.11.06.Sun