昨日からやっぱりなんか引っ掛かってる。
今日は、会える・・・よね?
Act.9 合成獣の権威
いつものようにタッカー家へ向かう。
空は何だか曇っていて、雷が鳴っている。
「今日は降るな、こりゃ」
エドが呟く。
「・・・?どうしたの、朝から変だよ?」
「・・・うん・・・・・・」
カラン カラン
「こんにちはー。タッカーさん、今日もよろしくおねがいします」
アルがドアを開け、声を掛けて覗き込むが、家の中はしんとしていて静かだ。
「あれ?」
「誰もいないのかな?」
その時に、昨日から引っ掛かっている事が判ってきた。
嫌な予感、妙な胸騒ぎ。
「・・・・・・まさか・・・!」
「え、あ、ちょっと!?」
まさか・・・まさか・・・・・・今日・・・?
研究室の前で止まり、中に入る。
そこにはタッカーと・・・合成獣・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・っ」
私は瞬間的に半歩下がる。
「おいっ!、どうしたんだよ!!」
「・・・あれ?タッカーさん」
「ん?なんだ、いるじゃないか」
後からエドとアルが追いついてきた。
「ああ君たちか。・・・見てくれ、完成品だ。人語を理解する合成獣だよ」
・・・・・・違う。
「見ててごらん。いいかい?この人はエドワード」
『えど わーど?』
「そうだ、よくできたね」
『よく でき た?』
・・・・・・違う。
「信じらんねー。本当に喋ってる・・・」
「あ――、査定に間に合ってよかった」
・・・違う・・・あれは・・・・・・。
「これで首がつながった。また当分、研究費用の心配はしなくてすむよ」
「・・・・・・そんな・・・こと・・・っ」
ゴッ
「がっ!?」
私は拳を作り、タッカーを思いっきり殴り飛ばす。
「!?お前、いきなり何を・・・」
「・・・・・・っ、そんな、ことのために・・・っ・・・あんたは・・・2年前も・・・・・・!」
「・・・2年前・・・・・・!?」
はっとしたエドが屈んで見ていた合成獣が喋り続けている。
『えど わーど えどわーど お にい ちゃ』
「・・・タッカーさん、ニーナとアレキサンダーどこに行った?」
「・・・・・・はははっ、君たちのような勘のいいガキは嫌いだよ!」
ガッ ゴン
「がは!」
エドがタッカーの胸倉を掴んで壁に叩きつける。
「兄さん!!」
「ああ、そういう事だ!!この野郎・・・やりやがったなこの野郎!!2年前はてめぇの妻を!!そして今度は娘と犬を使って合成獣を錬成しやがった!!」
「・・・・・・・・・!!」
「そうだよな、動物実験にも限界があるからな。人間を使えば楽だよなあ、ああ!?」
「は・・・何を怒る事がある?医学に代表されるように、人類の進歩は無数の人体実験のたまものだろう?君も科学者なら・・・」
「ふざけんな!!こんな事が許されると思ってるのか!?こんな・・・人の命をもてあそぶような事が!!」
「人の命!?はは!!そう、人の命ね!鋼の錬金術師!!君のその手足と弟!!それも君が言う、“人の命をもてあそんだ”結果だろう!?」
ゴ・・
エドはタッカーを殴る。
「がふっ・・・はははは、同じだよ、君も私も!!」
「違う!」
「違わないさ!目の前に可能性があったから試した!」
「違う!」
それでもタッカーは話をやめようとしない。
「たとえそれが禁忌であると知っていても試さずにはいられなかった!」
ゴッ
「ごふ!!」
「違う!!」
エドはタッカーを殴り続ける。
「オレたち錬金術師は・・・・・・・・・こんな事・・・・・・・・・オレは・・・オレは・・・!!」
ガッ
アルがエドの手を掴む。
「兄さん、それ以上やったら死んでしまう」
やっとエドはタッカーの胸倉を離した。
「はは・・・きれいごとだけでやっていけるかよ・・・」
「タッカーさん。それ以上喋ったら、今度はボクがブチ切れる」
アルに言われ、ぐ・・・っとタッカーは怖気づく。
そして、アルは合成獣のところへと歩み寄る。
「ニーナ。ごめんね、ボクたちの今の技術では君を元に戻してあげられない。ごめんね、ごめんね」
・・・・・・・・・・・・ごめんね、ごめん・・・ニーナ・・・・・・。
『あそ ぼう あそぼうよ あそぼうよ』
「・・・・・・っ」
私はタッカー邸を飛び出した。
『あそぼうよ』
この言葉は、耳から離れない――――。
雨の中、息の切れるまで走ると、そこで止まる。
「ニーナ・・・」
曇った空を見上げた目には涙が浮かんでいるのかさえも、雨のせいで判らない。
「・・・!」
東方司令部の前に帰ってきた私を見つけて、アルが駆け寄ってくる。
「・・・もう大丈夫?」
「・・・・・・うん、平気・・・」
「・・・なんでだよ」
「え・・・?」
「・・・・・・なんで平気なんだよ!!お前は、あんな事があってどうして平気でいられるんだよ!!」
顔を伏せていたエドが怒鳴る。
「兄さん・・・」
「・・・私だってつらいよ!本当に平気なわけじゃない・・・。私はニーナを助けられなかった・・・・・・ひどすぎるよ・・・!」
そうだ・・・私は知ってたのに・・・・・・こうなるって・・・。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・エド、アル・・・風邪引くからもう帰ろう・・・・・・」
宿に戻って、私はすぐにベッドに伏せった。
・・・・・・私は、ニーナの事・・・ああなるって知ってたのに・・・どうして止められなかったんだろう・・・。
どうして今まで気付かずにいたんだろう・・・・・・。
「・・・・・・ごめんね、ニーナ・・・・・・・・・」
ニーナの笑顔を思い出すだけで涙がどんどん溢れてくる。
それからどれだけ泣いていたのか判らない。
back next
--------------------
2005.11.13.Sun